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 10月31日に、日銀は、金融政策決定会合において、質的・量的金融緩和の拡大として、マネタリーベース(市場に流通している通貨の量と銀行が日銀に預金している当座預金残高の合計)を、今まで以上に増加させることを決定しました。
 具体的内容としては、国債購入残高の増加額を、今までは年間50兆円程度としていたものを80兆円に拡大するというのが基本です。

 軌を一にして、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、運用方針の変更を発表しました。変更内容を、ポートフォリオの構成割合で示すと次のとおりです。
           変更前 変更後
  国内債券    60%   35%
  国内株式    12%   25%
  外国債券    11%   15%
  外国株式    12%   25%
  短期資産      5%     -
  GPIFの投資資産規模は、約127兆円です。上記の構成割合を金額に直すと、ほぼ次のようになります。
                        変更前      変更後
    国内債券     76.2兆円   44.5兆円
  国内株式      15.2兆円   31.8兆円
 外国債券       14.0兆円   19.1兆円
 外国株式       15.2兆円   31.8兆円
 短期資産         6.4兆円        -


 日銀が、金融緩和の拡大として、国債を買い増しすると言った規模は30兆円程度です。一方、GPIFは、今までの方針を変更して、国内債券の保有額を30兆円以上減少させると言っています。さらに、GPIFは、国内債券を売却した資金を国内外の株式等に投入することになります。

 この一連の発表内容をまとめると、日銀は国債をGPIFから30兆円買いとって、GPIFはその資金を株式市場に投下するというものです。日銀とGPIFとの間には、銀行が介在しますが、まとめるとそのようになってしまいます。
 これらの発表があって、10月31日の日経平均株価は、前日の終値が15,658円20銭であったものが、午後に急上昇し、最高値は16,533円91銭をつけ、終値では16,413円76銭となり、755円56銭の上昇で終わりました。


 このように、日銀とGPIFが同時に方針変更の発表をした狙いは何だったんでしょうか。
 日銀の発表では、物価の2%上昇がしきりに取り上げられます。ターゲットとしていた物価2%上昇ですが、これは厳しい状況にあると思われます。物価ですから、民間の景気が上向かなければ、ありえないのです。
 そんな困難なことをするより、手っ取り早い方法があります。それが、株式価格の引き上げです。
 つまり、この一連の方針転換は、上場株式の株価をつり上げることによって、景気浮揚感を醸し出し、その雰囲気に乗って、一気に消費税率を10%に上げようという政府の趣旨に沿ったものなのです。

 日銀は政府と独立しているとはいうものの、総裁などの役員は内閣が任命することになっています。GPIFは、日本語では年金積立金管理運用独立行政法人と難しい名称ですが、英語ではGovernment Pension Investment Fundとなっており、政府の一機関であることがわかります。つまり、内閣、日銀、GPIFは、同じ方向で動くことができる一体のものなのです。
 でも、日銀には良識が多少残っているのか、今回の方針転換においては、賛否がわかれ、5対4で黒田総裁並びに政府の方針に沿った方針転換をすることになったのです。4名の反対をした委員の方に敬意を表したいと思います。


 ところで、政府は、来年、何としても消費税率を10%に引き上げたいのです。しかし、今年4月の消費税率引き上げに伴う需要の減少について、安倍首相は10月30日の衆議院の予算委員会で、「想定内ではあるが、想定の中では最も悪い数値に近い」と発表しました。
 安倍首相は、12月上旬までに、来年10月から消費税率を10%に引き上げることを決定することにしていますので、景気が最悪の状態のままでは、その決定をが難しくなります。何としても、景気を上向きにしなければならないのです。
 そこで登場したのが、政府の一翼を担う日銀とGPIFなのです。

 私は、このような手段を講じても消費税率を引き上げたいという安倍首相の意気込みからすると、消費税率は間違いなく10%への引き上げは決定すると考えています。
 たとえ株価が一時的に多少上昇したとしても、今後の景気は4月の消費税率の引き上げで大きく後退をします。仮に12月に消費税率の引き上げを決めても、景気の大幅な後退を見れば、消費税率引き上げを思いとどまるのが正しい判断です。
 しかし、政府は、そのようなことはお構いなしに、決めたことは実行しなければ海外から非難されることなどを理由に強硬するはずです。

 今の状況を第二次世界大戦当時に引き直すと、武器も食料も持たず、インパールへ侵攻していった日本軍と同じ姿です。あるいは、米軍の航空機によって攻撃されることがわかっていながら、航空機による護衛もなく、単独で沖縄へ向かった戦艦大和と同じと言ってもいいでしょう。

 最悪の政策だけは思いとどまってほしいというのが私の希望ですが、それは極めて難しいことのようです。

<< 前回の記事 相続税の増税

 増税に対応するには、前もって準備をする以外に手はありません。そのとき、相談できる相手は税理士以外にはいないのです。早い時期に、税理士に相談すべきでしょう。
 ただし、消費税の増税については、一般的な国の説明をうのみにしている税理士は、消費税はお客様から預かった税金を国に納めるだけだから、納税者には何の影響もないと信じています。そのような税理士に相談しても、消費税増税で資金繰りが大変になるということは理解できませんので、相談相手にはなりません。消費税について、正しく理解している税理士をさがす必要があります。
 また、私の経験では、相続税のことを知らない税理士もいました。相続税増税の相談についても、相続税に詳しい税理士を選択しなければいけません。
 税理士の選択は難しい面がありますが、それぞれの税理士事務所のホームページなどでよく吟味をして、これはと思う相談してみることでしょう。

<< 前回の記事 消費税増税で滞納が増えるわけ

 相続税の増税は、平成25年度に決定され、平成27年1月から実行されます。増税の大きな改正点は、基礎控除の引き下げです。

基礎控除とは
 人が死亡して相続が開始しますと、その亡くなった人が残した財産の合計額が、基礎控除額を超える場合に、その超えた額に課税されるのが相続税です。
  現在の基礎控除は、5000万円のベースがあります。それに、法定相続人1人について1000万円を加算します。配偶者と子供2人の場合、法定相続人は3人となりますので、現行では基礎控除額は8000万円となります。
 その基礎控除額が、6掛けに引き下げられます。5000万円であったベースの部分は3000万絵になります。法定相続人1人ついて設けられていた額も600万円に引き下げられます。配偶者と子供2人という先のケースでは、基礎控除額は4800万円に引き下げられます。
 遺産総額が1億円であった場合、基礎控除が8000万円ですと、相続税の総額は200万円となりますが、基礎控除が4800万円になると630万円と3倍以上に増加するのです。
 遺産総額がもっと多くなると、相続税の増加割合自体は小さくなります。でも、金額としては、数千万円の増加ということも考えられますので、よく検討しておくことが必要です。
 さらに恐ろしいのは、遺産総額が5000万円程度で、今まで相続税の心配をしないですんだ家庭です。今まで、相続税の心配をしていませんでしたから、何の準備もしていないことが多いものです。
 そのような家庭では、相続税の申告と納税をしなければならないという考えすらないのが一般的でしょう。相続税の申告がないまま、税務当局が相続税の申告が必要であったことをつかんだときはどうなるのでしょうか。
 ある日、突然、税務署からの呼び出しの手紙が到着します。遺産の内容がわかるものと印鑑を持参して税務署に出頭せよというのです。実は、その時はすでに税務署は遺産の内容はほぼつかんでいます。
 その呼び出しに対し、何かわからずに税務署に行ってみると、相続税の申告をしていないことと滞納しているということで、申告書の提出と納税をせよと詰め寄られます。基礎控除額の引き下げによって納税が発生するケースは、数百万円程度の増加で済むと思われます。でも、突然、数百万円の税金を納税せよと言われてあわてることになります。
 しかも、滞納していたことになり、加算税や延滞税といった過怠税も合わせて納税しなければならなくなるのです。平成27年からは、このようなケースが増えるものと思われます。

<< 前回の記事 平成26年度税制改正について

 消費税増税は、平成25年度税制改正で税率引き上げが決定され、すでに平成26年4月から断行されています。消費税を増税すると、どうして滞納額が増えるのでしょうか。以下に説明をします。

①消費税は前払である
 一般的に、消費税はお客様から預かった税金を国に納めるだけだと説明されています。ほんとうにそうなのでしょうか。
 消費税の申告と納税は、決算期末から2か月後です。ごく一般的な卸売業で考えてみると、3月決算の会社であると、3月に売り上げた金額に含まれる消費税は、2か月後の5月に納税します。ところが、3月の売上が現金化するのは、もっと先です。3月の売上は4月に集金するでしょうが、手形で回収するだけです。税務署は手形では税金を受け取ってくれません。その手形が現金化するのは、そこから3か月後か4か月後となります。
 つまり、期末の売上は早くても4か月後くらいに現金化するのに、消費税は2か月後に現金で納税しなければならないのです。
 納税額のすべてとはいいませんが、消費税は預り金を国に納税するのではなく、前払制度が導入されていると言えるのです。だから、消費税の滞納が多いのです。

②消費税率の引上げで惑わされる
 消費税率は、今回5%から8%に引き上げられました。納税額も1.6倍程度になると考えるのが一般的です。でも、実際の納税は、そんななまやさしいものではありません。 
 消費税には、予定納税制度があります。前年の年間納税額の2分の1を、決算開始から8か月後に前もって納税しておくと言う制度です。
 消費税は、その会社の付加価値に課税されます。そこで、付加価値が1億円である会社の納税額が、消費税増税によってどのように変化するかを見てみましょう。
 前年の消費税は、付加価値1億円に対し5%でしたから、年間で500万円の納税をしています。翌年の予定納税は、その半分ですから、250万円を予定納税として治めます。
 決算になり、付加価値に変化はなかったとします。すると、次年度の年税額は8%ですから800万円ということになります。予定納税では250万円しか収めていませんから、残りの税額550万円を決算から2か月後に納税しなければならないのです。
 毎年、半年に1回250万円を納税してきたのに、増税後の最初の納税額は2倍以上の550万円となるのです。
 ここでは、付加価値が減少しなかったという前提ですから、資金繰りは順調なのですが、消費税率が引き上げられると、一般的には付加価値は減少します。したがって、入ってくるお金は少なく、納税額だけ2倍以上になるというダブルパンチを食らうことになります。
 消費税率が1.6倍になっただけと安心していると、思わぬ資金不足になる可能性があるのです。

 平成26年4月から消費税率が引き上げられました。この消費税増税は、平成25年度にすでに決まっていたことで、平成26年度の改正は、消費税増税を受けて、景気の下振れリスクに対しどのように対処するのかというのが中心となります。
 消費税増税に伴う下振れリスクの対し、設備投資をしたときの減税などがありますが、平成26年度の税制改正には見るべきものがありません。私は、平成20年度から平成25年度まで、税制改正に関する書籍を出版してきましたが、今年は書籍の出版をやめました。あまりにも内容が乏しく、逆方向に走っているという感を強くしたからです。
 ここでは、その代表例だけを説明します。

消費税増税に伴う滞納額の増加
 前回の消費税増税は、平成9年(1997年)に行われています。この当時の、国税の滞納額は1兆円を超えていました。その後、国税当局は、その取り立てに奔走し、現在では3000億円程度の滞納額となっています。
 国税当局が滞納額を取り立てるというのは、納税者が滞納額を納税する場合もありますが、納税者が破産をして回収不能で処理されるケースも結構あります。国の滞納額の取立ては、納税を促すだけでなく、破産をさせるという手段も含まれているのです。
 平成26年4月に、消費税率が引き上げられました。その引き上げによる納税は、ほとんどが翌年の平成27年になってから現れます。滞納額が増加するのは、それから先となります。再び1兆円を超える滞納額が発生するかもしれません。

平成26年度税制改正の目玉
 私は、平成26年度税制改正の目玉は、あまり取り上げられることはありませんが、換価の猶予だと考えています。 
 消費税増税によって、滞納額が大きく膨らむことが予想されますが、そのとき活用されるのが換価の猶予なのです。

換価の猶予とは
 換価の猶予とは、滞納額を有する者が、自分が保有する資産を売却し換価して納税をするから待ってほしいと、税務署に届け出た者には、待ってあげましょうという制度です。逆に言うと、このような届け出をしない者には、破産をさせてでも徹底的に取り立てるという意味が含まれているのです。
 これは、山下流経済論で取り上げた「聚斂(しゅうれん)の臣」のなせる業で、下々から取り立てればそれでいいという発想の現れです。このような聚斂の臣が国を牛耳れば、次々に悪いことがおこり、手が付けられなくなるのです。

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